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大阪地方裁判所 昭和38年(行)43号 判決 1964年6月26日

原告 奥崎謙三

被告 大阪刑務所長

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方が求めた裁判

原告

「被告は原告(受刑者)の監房より工場に出役する往還時における全裸検身を廃止せよ。

訴訟費用は被告の負担とする。」

との判決、

被告

主文同旨の判決。

第二、当事者双方の主張

原告

(請求原因)

一、被告は従来からの因習を踏襲し、受刑者が監房から行き帰りする際に全裸検身を実施しているが、全裸検身は刑務所の保安上不可欠のものとはいえない。

二、全裸検身を実施することは監獄法施行規則第四六条の濫用であつて刑法第一九三条、第一九五条に該当するものであり、又憲法第三章の各規定にも違反する。

三、もし、全裸検身が刑務所の保安上絶対に不可欠のものであるとするならば、世界中全ての刑務所で実施せられている筈であるが、現に神戸刑務所では実施されていないということである。

このような全裸検身が受刑者の反則、事故防止の目的からなされているとすれば甚だしい認識不足であつて一律に全裸検身を実施することによつては実効は期し難く、単に弱い立場にある受刑者を不当にいじめ苦しめるものに過ぎない。

(被告の主張に対する答弁)

一、原告が大阪刑務所在監中の受刑者であること、大阪刑務所に入所以来工場に出役したことがなく、全裸検身を受けたことがないことは認める。又原告は工場への出役を希望していないし、又近い将来工場へ出役させられることもないと思うが、将来工場へ出役する場合は全裸検身を受けることになるので、原告及び他の受刑者を含めて全裸検身制度の廃止を求める。

被告

(被告の主張)

一、原告は昭和三二年一一月七日大阪刑務所に入所した受刑者であるが、同刑務所に入所以来今日まで引続き独居拘禁に付されている。

そして原告は入所後しばらくは考査中のため作業に就いておらず、後に就業するようになつてからも、原告は自己中心的な正義感が強く、他の収容者との協調性に乏しいため、ずつと居室内における紙細工等の作業に就いているため、今まで作業のために監房を出た事は一度もなく、工場より還房するさいなどに実施されている身体、衣類の検査を受けたことはない。又原告を将来工場へ出役させる可能性は現在のところない。

二、そうであるとすれば、原告の本訴請求は、原告の具体的な権利義務に関係のない事柄についての出訴であつて「法律上の争訟」に該当しない。

理由

一、原告が大阪刑務所に在監中の受刑者であること、原告が同刑務所に入所以来工場に出役したことも全裸検身を受けたこともないことについては当事者間に争いがない。

そして原告が工場への出役を希望していないこと、原告自身近い将来工場への出役を命ぜられることはないと考えていることは原告の自認するところである。

二、そうであるとすれば、原告の本訴請求は、被告の行う全裸検身によつて、原告の権利が違法に侵害され、或は違法に侵害される危険が接近していることを理由として、その法的救済を求めているのではなく、被告が工場に出役する受刑者(原告を含まない)に対して行つている全裸検身という制度の一般的な違法、不当を争うものであることが明らかである。

従つて原告の本訴請求は、具体的な権利義務に関する原被告間の法的紛争について、その救済を求めるものではないから法律上の争訟に該当せず、又このような事項について特に裁判所に出訴を認めた法規も存在しないから、裁判権の対象とならず不適法なものであるといわなければならない。

三、もとより、原告は大阪刑務所に在監中の受刑者であるから、将来工場への出役を命ぜられ、その結果全裸検身を受けなければならなくなるといつた事態が全く予想されない訳ではない。

しかし、このような抽象的な可能性だけでは、原被告間に法律の適用によつて解決せられるべき具体的な権利義務の存否に関する紛争が存するということはできない。

四、以上のとおりであつて、原告の本訴請求は不適法であるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 山内敏彦 平田孝 小田健司)

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